あまりにも唐突なその言葉に、隣へと視線を流してみると
先程まで示し合わせるでもなく、それでもピッタリ肩を並べていた彼は、
僕より数歩後ろにいて。

見知らぬ民家の垣根の上に、緑の葉を見てじっとしている。
悲しむでもなく、驚くでもなく、ただただぼんやりぽかんと、
つい先週まではオレンジの粒を零れさせんばかりだった樹の、
裸の姿を凝視していた。

「ああ、花が」
「うん、花が」

粒の成れの果てを彼の足下に見咎めて、やっと合点がいった。
盛んな頃は見た目も鮮やかで、
例え見えずとも嗅覚ですら人を惑わす魅力を持っていた花が今はどうだ。
晩秋の雨に打たれ、人に踏まれ、色あせてドロドロに溶けかけている。

「あわれだな」

「え?」

「樹にある内はあれだけ華やいでいても、地に落ちれば相手にもされない。哀れだ。」

「ああ・・・‘哀れ’ね。」

そう言って、彼は足下のオレンジの粒をこすった。
最期の時と云わんばかりにそれは微かな芳香を漂わせた。




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