「あっつ・・・」

先程から腰には異様な熱が染みこんできて、思わずオレは息を零した。
厚めの布地の上から貼っているにもかかわらず
それは繊維の隙間を目ざとく見つけて自分の熱をねじ込み続ける。
たかだか鉄と空気の化学反応のくせに。
ここまで強力ならもう一つ中に着込んでおくべきだった。

「だから、大人しく巻けばいいのに。」

まるで背後から襲ってくる何者かを回避するように腰を退いたりくねったり、明らかに挙動不審なオレをみて
塔矢はいたって冷静に物申した。
車、気をつけて。としれっと注意までしてきて。
まったくくだらない死に方をしそうだなキミは。とか余計なことまで呟いて。

「だからオレは行きたくないって言ったのに。」
「でもボクの一存で決めるとまた文句を言うじゃないか・・・というか見てて寒そうだな、その首もと。」

そういう塔矢はダークのコートの下にしっかり茶色のマフラーを巻いており、
手袋を嵌めた手には大根やら水菜やらが入った買い物袋を下げている。
今日は絶対鍋だって、コイツが譲らなかったんだ・・・結局オレの意見無視じゃねェか。

「マフラーは?ボクの買ったやつ。」
「押し入れン中。」
「ひどいな。」
「オレが巻けないって分かってて買ってくるヤツの方がヒドイ。」

すっかり裸になった桜並木を縫いながら、小さな段差を飛び越えると塔矢は
クスクスクス。あの時宜しく笑いやがった。
ソレに合わせてコイツの口から白い湯気がほわんほわんと立ち登る。
薄く霞がかかったようにゆっくりと黒髪を掠め消えていく様を別に気にした風もなくまた脇道を歩き始めた。
どんなに捻れたこと考えていようが何をしてようが、基本コイツはこういうヤツだ。
顔が良ければなんだって絵になる。
心なしか更に腰が熱くなったのは、コレもホッカイロの所為だと決め込んだ。
まったく腹の立つ

「前世で絞殺された?」
「・・・・・・は?」

余りにも今までの雰囲気にそぐわない単語だったから、一瞬漢字変換に戸惑った。
こうさつって・・・

「首、絞められて殺されたってこと?」

塔矢は頷く代わりにまたクスクスと笑う。
や、笑うトコロじゃないでしょうに?

「マフラーを巻けない人はね、大概首の圧迫感を嫌うんだよ。
それは前世に首を絞められた感覚に似ているから、知らず知らずの間にトラウマとして拒絶反応が起こるんだって」
「書いてたのか?」
「自説」

今すぐアイツの袋から大根取り出して殴ってやろうかと思った。
勝手に人を首絞めの刑で殺すなよ。
おーヤダヤダ。
一気に身体が冷めた様な気がするのは有り難いけど

「おまえ・・・そんなに巻いて欲しいのかよ」

マフラー
と付け足すと

「まぁ、ね。」

クスクスクスクス
怖えー・・・・・・

「オレが前世で首絞められて死んだなら、お前はオレの首を絞めた犯人だろうよ。」

仕返しのつもりでイヤミ満載言ったのに

「それは本望。」

囁くようにそれだけ言うとサクサクと寒風を切って歩いていって仕舞った。




「・・・・・あっつ・・・」

ホッカイロとはまた違った熱に、オレは想わず腰をさすった。







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