ようこそ。ここは夜も眠らぬ街。
そんな場所のとある一角に存在する空間。
名前は“VIP”。
厳かな重い扉を開けて、さあいらっしゃいませ。











***










トモハル(※庄司の下の名を想定)は庄司酒店の次男。
いつかは家業を継ぎたいと思ってはいるが、その前に世間を見ておきたかった。
いろいろとやってみたいことはあったが、何しろそれについていける頭も持っていなかったので、とりあえずホストクラブでバーテンでもできたらと思っていた。
それは、酒屋を仕切るようになったときに役立つだろうとも考えていたし、ただ単純に夜の世界を垣間見たいと思ったためでもある。
とりあえず、学校のクラスではノリの良いほうだと自覚はしていたので、自分にはホストクラブで働くということが適職のように思えた。
ただ、ホスト自体になりたいとは思わなかった。
上下関係が厳しい、というようなことを噂で聞き、そういうのは学校の部活やクラブで十分だと思っていた。
単に、楽をして楽しみたかったのだ。
だが、その考えは非常に甘かった。孤立していると思えたバーテンでも見習いとなればしっかりと扱かれたし、何より掃除を徹底しなければならなかった。
掃除は、この世でトモハルの一番嫌いなことだった。

「おまえさー、聞いたら俺とあんまり入店時期変わらないんだってな」
「馬鹿言うな。僕のほうがおまえより3ヶ月も早く入店してる」
そう呟きながら床をせっせと磨くのはシンジ(※岡の下の名を想定)。
彼が言うとおり、トモハルより3ヶ月前に入店して、今現在はホスト見習い中だ。
「・・・あんまり変わんねぇじゃん。なんだよ、せっかくの同期なんだから仲良くやろうぜ」
「僕はおまえの先輩だ。そんなことより口じゃなくて手を動かせよ」

トモハルはシンジの言葉に拗ねつつも、それでも一番心置きなく会話の出来るヤツだと思っていた。
バーテン先輩のシンイチロウは優しいがかなり年上だったので敬意を払わないわけにはいかなかったし、ホスト先輩の人々はどこか遠い存在に思えた。
中でも、トモハルとは1番次元の超えたところに存在するのが、当店bPのアキラだった。
彼はbPだからと言って高圧的な態度を取ることもなかったし、どちらかと言えば優しい部類に入った。
それでも彼の放つオーラは神々しく、近寄りがたかった。トモハルは恐縮していたが、それは怯えるというようなものではなく、ただただ尊敬に値したものだった。
「おまえさ、何ぼーっとしてんの?」
トモハルはその声に驚き飛び退いた。
「う、うわぁっっ!!」
「わっっ!びっくりしたー!いきなり大声出すなよなー」
「せ、先輩がいけないんじゃないっスか!急に現れたりするから!」
「しーっ!しっ!だから大声出すなって!ここにいんのバレるだろ」
「・・・また何かアキラさん怒らせるようなことしたんスかぁ?」
「だって、アイツが・・・」
と、言うか言わないかのうちに、凄まじい音で控え室のドアが開けられた。
「ヒカルっ!君はいつもいつも〜〜〜!!」
凄い形相のアキラに“ヒカル”と呼ばれた当店人気ホストは慌ててトモハルの背中に隠れる。
そう、ヒカルは当店のbQだ。bPのアキラとは対極の位置に存在するような人だ。アキラが微笑んでお客の話しに耳を傾けるなら、ヒカルはいつも笑ってその場を盛り上げ、天然の明るさでお客を魅了する。
アキラとヒカルはまるで、月と太陽だった。
だが、トモハルはいまいちヒカルの人気に首をかしげている。
アキラはホストとしての品のある雰囲気を醸し出していたが、ヒカルはそこら辺にいるにーちゃんとまるで変わりがなかった。

「ヒカルさんは凄い人だよ」
シンジは目に光を溜めて言う。
「あの人は天才なんだ。アキラさんを抜くのも時間の問題だ」
「おまえ何てこと言うんだよ!」
閉店後で店にはオーナーとトモハル、シンジしか居なかったが、トモハルは咄嗟に声を潜めた。
「アキラさんの位置は不動だ。あの人を超える人なんていやしないよ。・・・それに、俺にはヒカルさんのどこに人気があるのか、いまいちわかんねぇ」
「おまえ馬鹿か!長年この世界にいるアキラさんとは違って、ヒカルさんは入店してまだ1年も経ってないんだぞ。それであの位置だ。あの人は凄い」
トモハルはヒカルが入店してまだ間もないことを知り、息を飲んだ。しかし、それでもシンジが熱心に語るようにどこがどう“凄い”のか、よく理解できなかった。
「おまえもさ、ヒカルさんの働いてる姿見てればわかるよ。僕はあの人を尊敬してる・・・・・・っとと。
もう時間だ。僕もう帰るから、後よろしくな」
後に残されたトモハルは、仕方なくグラスを綺麗に元に戻し、オーナーに成果を告げてから朝日の中、家に帰宅した。

そもそもシンジがああ言ったところで、トモハルにはヒカルの働く様子など満足に見られるはずもなかった。
バーテンとホストとは舞台が違ったし、トモハルはまだバーテン見習いだったので、奥でグラス洗いをさせられていたのだ。
入ってから5ヶ月は雑用をさせられる、というしきたりは古くからあったもので、シンイチロウには人の善さげな顔で「がんばれ」と言われた。
もともと、物事が長続きしない性質のトモハルは、すでにこの単純作業に飽き飽きしていた。あまつさえ、あとちょっとこの状態が続くようだったらもう辞めようとさえ思っていた。

「え、外出ていいんスか?」
外と言うのは無論、店の外という意味ではなく、フロアのカウンターという意味だ。
シンイチロウはにっこり微笑んだ。
「でもまだ3ヶ月しか・・・」
「うん。でもいいんだ。表向きは5ヶ月見習いということにしてあるけどさ」
時には、この人実は性格悪いんじゃなかろうか?と思われた笑顔が今は天使のように神々しいものに見える。
トモハルはシンイチロウにありったけの感謝の言葉を述べようとしたが、それは呆気なく邪魔された。
「ハル!匿って!」
またか。
トモハルは肩を落として後ろにしがみ付く重みに耐えた。
ヒカルはこうして時々、トモハルのことを“ハル”と呼んだ。“トモハル”だと長くて面倒くさいと以前本人が言っていた。
「何やってるんスかー。そうやって逃げて、逃げ切れた例がありますか。早く出てって謝っちゃってくださいよ」
「・・・・・・。今度のは俺が悪いんじゃないもん」
「じゃあそうやって隠れる必要ないじゃないですか」
「・・・。シンさーん!こいつがいじめるー!」
ヒカルは今度はシンイチロウにしがみ付いて、さめざめと泣く演技をしてみせた。本当に、この人が当店の人気ホストなのか?何かの間違いじゃないんだろうか?トモハルはその目を疑った。
「ヒカルっ!やっと見つけたぞ!」
肩で息をしながらアキラが現れたとたん、ヒカルはまるで飼い犬よろしくビクっと首を引っ込めた。
「君は毎度毎度よくもまぁ、僕を怒らせられるな。君には感心するよ」
「そ、そりゃどうも」
シンイチロウはプっと吹き出した。
「褒めてない!さぁ、こっちへ来て説明してもらおうか!」
「ちょっ、ちょっと!まっっ・・・。た、たすけてぇー!ハルー!」
トモハルは聞こえない振りをしてアキラがヒカルの首根っこを掴んでいくのを見守った。
それにしても、あの品行方正なアキラは、ヒカルが絡むとなると人が変わったようになる。トモハルにはそれを何と表したら良いかわからなかったが、敢えて言うならば、アキラが“人間らしくみえる”ということか。
トモハルは、それが当店のbP、2を争うということなのかもしれない、と思った。









***










「ごめんってば」
悪びれもせず舌を出す様子に頭が沸騰してくる。
「なぁ、許してよ」
首に腕が巻きつけられ、温かく湿った唇が重なった。
それが濃厚なものになるにはほとんど時間を要しなかった。
寒い夕暮れの下では縦横無尽に蠢く舌の熱さもさらに増す。
次第に息が上がってきた。
許すものかと思う。
この熱い舌を噛み切ってやったらどんな顔をするだろう、と考えてもみる。
それでも自分は許し続けるのだ。
自分の中に、この狂おしいほどの愛情がある限り。
生きている限り。





















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ロク様より頂きました!
な、なんと、キリリクのホストイラストと漫画からこの様な素晴らしいお話を考えてくださったのです。
暫く私が独り占めしていたのですが、こんなに素敵なお話、私一人で眺めるのは勿体ないと思い
是非とも皆様にお見せしたいとお願いしたところ快く承諾してくださいました。
ロクさん、ありがとうございます!

出だしからなんとも格好いいですが、私の中でこのお話での一番のツボは
トモハルの事をヒカルが「ハル」と呼ぶところ♪
あだ名!なんて可愛らしいんでしょうか。
メインがアキラとヒカルではなく、トモハル視点で書かれているのがまた良いですね。
原作の読み切りでもそうでしたが彼等の視点だとアキラとヒカルが大人っぽく見えます♪
そしてアキラとヒカルはしっかりラブラブです〜♪
追いかけっこはホストの世界でも健在ですね(笑)

そしてそして、なんと此方のお話から派生したという
「アキラとヒカルの出会い編」も一緒に送ってくださいました!

こちらからどうぞ!

ヒカルさん訳ありっぽいです。
そこがまた何とも良い感じです〜♪






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