その時触れた彼の手のひらは、僕らを包む花びらのようで、
それよりも少し温度が高くて。
僕は不覚にも涙をこぼした。

僕の中で、桜はとても複雑な花だった。

ある時は其の中で、父と手を繋ぎ頭を撫でられ、自らが一生誇りとして胸に刻む言葉を貰った。
ある時は、その誇りさえ揺らいでしまいそうなほど、衝撃的な彼に、理科室で完全な拒絶を受けた。

そして今、
僕は同じ色の花びらの中、
彼の優しさに泣いていた。


「コレ、一緒に行かねぇ?」
なんともなしに差し出された映画のチケットが二枚
彼の手の中に収まっていた。
ハラハラと花弁を数枚身に纏い、微笑んだ彼はきっと何も意識はしていないのだろう。
ただ、僕を大切に思ってくれてのこと。


「えっ?」
気候と景色の所為で元々霞んでいた視界が、今度こそ本当に霞んだ。
「どっ・・・どうしたんだよ?」
おどおどしながら僕の顔を覗き込んだ。
「もしかして・・・俺といくの、いやだった?」
嫌いになっちゃった?と真っ直ぐにくれる言葉はなんて切なさを持つのだろう。

純粋な思いが嬉しかったはずなのに。
ただ僕の気持ちを否定しないでくれただけでよかった、と、
そう思っていたはずなのに。

彼が自分の「好き」を僕に向けてくれるたび、僕の「好き」は彼には益々遠くなってしまう気がする。


「俺、オマエのこと好きだよ。
でも、俺はオマエのこと好きだけど、好きなんじゃなくて好きで・・・そういう好きは解らないんだ。」

「でも、オマエが俺のこと好きなのはすげー嬉しい。」

そう言って嬉しそうに笑った日から、僕は彼の言葉にそれ以上にも、それ以下にも動けなくなってしまった。

桜の花びらが舞い散る中

僕の胸にはまたひとつ、桜の思い出が編み込まれていった。












相方さんとのスカイプで貰ったネタ。




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