「ここはノゾキより、オシの方がよくねェ?」
「だが、そうすると右辺で渡されて面白くないだろう」

終局の形から石を碁笥になおし終えると、序盤からの手を追って検討が始まった。
中盤辺りまでの流れはそれなりに頷き合うことが多いが、盤面もせめぎ合いになってくると相変わらずボクと進藤は意見が合わない。
相手の手にも、なるほどと思う点が無いわけではないのだが、それでもやはり自分の手の方が良いように思えてくる。
それは進藤も同じ事で。
今日も相手の模様を荒らすための勝負手に異議を唱えあっていた。
以前なら互いの思考の不一致から検討がいつの間にか喧嘩となり、彼の「帰る」の一言でそのまま別れる事も多かったが、このごろは少し違ってきた。
口論こそすれ、ちゃんとお互いの考えを聞く姿勢を持ち、理解した上での争いとなっていた。

「ん〜・・・確かにオマエのいうことも分かるけど・・・」

特に、
進藤が最近、ボクに突っかからなくなった。

「でも、渡されても切っちまえばいいじゃん?」
「・・・・・・」

・・・いや

「そうだな。切断できれば、悪くない」

違う。
進藤が、じゃない。
ボクがムキにならなくなったんだ。

「だろ〜?あ、でもオマエが言うみたいに渡さずにノゾくってのも後々変化出来そうだけどな。」

へへへ。と嬉しそうに笑う進藤は、きっと昔からそうだったのだろう。
何事も真剣に、真っ直ぐに受け止めて受け入れてくれる彼。
ただボクが彼の言うことを子どものようにやたらと否定するから、腹が立って。

「どちらにしろ、此処は難しい局面だ」

変わったのは、ボクだ。
それはきっと、進藤も感じているのだろう。

「でもやっぱ、何て言っても今回のオレの敗因はコレだよなぁ」

言って、石を摘んだ彼の手は白優勢で進んだ盤面をひっくり返されたシーンを淀みなく再現していく。
白の放り込んだ手に、二段バネしてからのシボリの形。



ほら、またこの形。



「白の一手はオレ、決まったと思ったんだけどなぁ」

一手一手をお互いに並べていく。

「なかなか、読みにくい形だからね」

白を包んでいく黒。

「詰まっちゃうと、後はどうしようもないもんな」
「相手の流れをそのままに取り込む、鮮やかな手筋だ」

輝きはあの時のまま

「綺麗だな」
「ああ」


きっと、ずっと。

彼女の思いも
あの人の思いも



そして

此処に生きるボク達も。全ての人々の思いが

きっと









「なァ。塔矢」
「何だ?」


盤上に視線を落とした進藤の顔は、穏やかに笑っていた。
それが、あの時の彼女の顔と重なって----------

「オマエ、さ」

熱いものが頬を伝う





















「泣けるように、なったんだな」






























季節は、春。

窓から滑り込んできた桜の花びらが、優しくボクの頬を撫でた。



































それが運命でないのなら、

ボクは、
ボク達は、

とっくに忘れているはずだった




だけど-----------







一枚、また一枚と
ボク等が創り上げた世界に、桜の花びらが舞い落ちる。
白と黒の世界に、優しい色を広げていく。



包み込む暖かな日差しの煌めく中、


密かに囁き合う




二人の笑い声が聞こえたような気がした。




















































届いてるよ、キミ達の声。






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