それが運命でないのなら、ボクはとっくに忘れているはずだ。
だけど-----------






パチッ
いつもの市河さんの碁会所。
ここではお決まりの口論の後、もう一局と打ち始めたものが終盤に差し掛かろうとしていた。
盤を挟んでいるのは進藤ヒカル。
ボクと同じプロだ。

「う〜ん・・・」

今ボクの放った一手に金色の前髪をわしゃわしゃとかき混ぜながら手を止めた。
それはどこの定石の本にも、詰め碁集にも載っていない形。

ホラ、またこの形。

思わず笑ってしまう。
だが進藤はこの形への対処法を必死で考えているようで気付かれなかった。

「ありません。」

頭にやっていた手を膝の上に戻すと軽く頭を下げた。

「有り難うございました」

ボクもそれにあわせて礼をする。
黙々と石を片づけていると、進藤は何やら興味津々といった様子でボクに話しかけてきた。

「ひやぁ、あの一手にはドキッとしたな。あれで白模様はガタガタじゃん。
何?あれ、オマエの考えた新手?」

碁盤を乗り越えそうな勢いの進藤にボクは顔を下へやったまま、

「いや、違うよ。」

石を分けながら呟いた。

「教えて、もらったんだ。」

だから本当は、ボクが使ってはいけないのだけれど。

「ふーん。」

進藤はそれ以上聞いてはこなかった。
何かを考え込むように少し斜め上を向いて。
対するボクは依然下を向いたまま、黒石を碁笥に直し続ける。

  ジャラ、
  ジャラララ・・・

石のこすれる音だけが響いた。
顔を見られたくなかったんだ。
さっき、確かにボクは笑っていたはずだけど、
もしかしたら、
本当は、


泣いていたかもしれないから-----------------






















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