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          ---------------なぁ・・・・・・



どうしてアイツなんだ?





鱗雲は相変わらず紅色の空に帯となって横たわっていた。
家に着くと、そのままオレは部屋へ続く階段を上り中へ入って鍵を閉めた。
そろそろと細い息を吐くと同時に、今まで何とか張りつめたままで耐えていた糸がプッツリと切れる。
変わりに手招きする目の前のベッドにオレは素直に従った。
一度大きく沈み込んだ後に来る、小さな波。
開けっ放しの窓からはさわやかな風が入ってきて、薄いカーテンをバサバサと揺らしている。

(あの日もこんな感じだったな。)

シーツに顔を埋めたまま、オレは笑った。
目だけで部屋を見渡すがアイツがいるはずもない。

(なぁ・・・)

ふと、机の上にある黒い筒に目が留まった。
表面が少しざらざらした長細いそれは、二年前の春に卒業した葉瀬中の卒業証書だ。
もらった後、仕舞うのが面倒臭くてそのまま放っぽりっぱなしにしていたやつだった。

(そういやアイツ、卒業式にも出られなかったよな。)

はもう入院しちゃってて・・・・・・それで・・・・・・・・・


もう一人の、

“アイツ”は・・・・・・・



二人のアイツがいない卒業式。
他の友達はみんな居たのになんだか独りぼっちな気がしてた。
だから卒業式の終わった日、オレは病院に行ったんだ。
囲碁部の奴らも一緒に来てくれた。
“アイツ”はダメでも、せめて、だけにはちゃんと見せてやりたかったんだ。
オレ達の成長。
一つの、大きな節目。

大勢で押しかけて迷惑かなって思ったけど、はすっげぇ嬉しそうに笑ってた。
ベッドの正面にみんなで横一列に並んで、オレが卒業証書をもって一歩前に出る。
代表での名前を呼んだ。
「三年二組、」って校長先生のマネをして呼んだら、
アイツはちょっと恥ずかしそうに小さな声で「はい。」と言った。
いつもは元気いっぱいのくせにさ。
紙に書いてあることを読み終えて向きを変え、の両手にそっと乗せてやった。
「おめでとう。」って言いながら。
そしたらアイツ、妙にしおらしい態度になって、少し顔を俯けたまま上目遣いに言ったんだ。
「ありがとう。」って。




(どうしてなんだ?・・・)

もう一度聞いても、やっぱりそれに答えてくれるヤツはいなくって・・・

(どうして、アイツなんだよ・・・)

いつの間にか、顔を包んでいたシーツはぐっしょり濡れていた。

(ああ・・・オレ、泣いてるんだ。)

見開いた目からあふれ出た暖かい雫は、頬を伝って途切れることなく滑り落ちていく。

(バカみてぇ・・・これじゃあの時と同じじゃん。)

消えた“アイツ”に叫んだあの日。
決して叶うことなんてなかったのに。
ただ、あの時と違うのは、
まだ起こる前だってこと。
終わってしまった過去ではなく、これからの未来を嘆いてるってこと。


どっちがよかったんだろう---------------


何も出来なかった悔しさと、何も出来ない悲しさ。





-------どっちがよかったんだよ?  なぁ----------





四角い空の端には既に闇がうっすらと覆いを被せていた。
それはやがて色を増し、大きく広がる。
徐々に、徐々に。
空を包んでいく。












              ------------・・佐為・・・・--------------




















風は未だ絶える事なく、ヒカルの部屋のカーテンを揺らし続けている。
乾いた音だけが
バサバサ、 バサバサと
部屋に響いている。



すっと一吹きの風がカーテンをすり抜けた。
天井付近をくるくると回ると、ベッドに力なく横たわっているヒカルの髪を撫で、
涙に濡れた頬へとやさしく吹きかかった。
そして、









































           ---------------ヒカル-----------------



























夢の中で、そう、呼びかけられた気がした。





















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